edamamesakuraの部屋

趣味で描いてる漫画や、好きな作家さんについて書いています。

「稲村ジェーン」の台本

限定版ブルーレイBOXの特典として収録された復刻版台本。
これを元に映画「稲村ジェーン」の後半がなぜ、多くの人が「訳が分からん」という感想になっていったのか、推察してみます。
(この説明自体、訳が分からんものになってしまうかもしれません…)

 

f:id:edamamesakura:20211023203441j:plainここに書かれているヒロシの台詞「……なんで、ずっと黙ってたんだよ」これが映画ではカットされています。
竜のボードの持主、伝説のサーファーの一人が、骨董屋の主人であった事を、彼を慕うヒロシが悟るという大事な場面なのですが、
役者の表情と前後のエピソードで、このある意味、とてもわかりやすい台詞が無くても、映画を観てる観客は理解してくれると考えたのだと思います。

 

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その直後のヒロシと波子のシーン
前述の台詞があれば、ヒロシの言う「山のてっぺんで大きな波を待っている」のは骨董屋の主人の事で、
「ボードぐらい持ってないとカッコつかない」から持って行ってやろうとしていると、解釈出来るはずなのですが、
この後の波子の台詞

「みんな、他人じゃなかったの?」
で、映画を観ていたほとんどの人は、山のてっぺんで大勢のサーファー仲間が波を待っている、そこへ行くから、ボードがないとカッコつかなくなるのはヒロシ自身の事と、誤解してしまった。
(少なくとも私はそうでした)
もしかしたらヒロシは照れくさくて、敢えて波子に、そう誤解するような言い方で、山へ行く理由を説明したのかもしれないですが、
映画を観ている人達まで、それを真に受けたまま、この先の展開が続いていく事になってしまいました。


いくら大きい波とはいえ、その大きさは頭三つ。
(この表現も結局、何メートルぐらいを差してるのか不明なのですが…)
映画を観ているお客さんが、100メートル以上はある鎌倉の山でサーファーが波を待つなどというシチュエーションを思い浮かべるとは、
作り手側は想定していなかったのかもしれません。
しかし、こちらとしては、巨大な波の大きさというものの知識が皆無なので、そういう状況があり得るのかどうか、いまだによくわかりません。

そういう解釈のまま、この後のシーンを見続けていくと、骨董屋の主人の為のはずのヒロシのやっている事は意味不明、目的不明となってしまうのですが、
台本ではちゃんと、ヒロシと波子は山の上の病院へ辿り着き、そこへ竜のボードを置いて、病室へと向かう。

 

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f:id:edamamesakura:20211023204758j:plainこれなら、ああそうだったと、観ている方も前のエピソードを思い出し、ヒロシがやろうとしていた事を理解し、共感出来たかもしれないのですが、
完成した映画では一切そのシーンがないので、最後までヒロシの一連の行動がわからないまま終わってしまう。


そもそも、なぜ山へと向かうストーリー展開にしたのか

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まるで荒れる波のように
まるで大きな波に跳ね飛ばされたように
荒れる海のように揺れる木の枝々
谷の腹が襲いかかる巨大なチューブのように見える

しきりに、ヒロシと波子が山で遭遇する自然現象を海のそれで比喩しています。
海で強大な大波へ向かう映像を撮影するのが困難なので、山でそれを疑似体験させる映画にしようという意図が読み取れます。

 

クライマックスシーンの表現

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この台本のイメージ通りなら、観ている方もカタルシスを感じられたような気がしますが、

実際の映画だと、ボードは宙に浮かびますが、加速はしないでほとんど静止状態。ヒロシと波子はその上でほとんど直立不動なイメージなので、篝火の巨大な波、その中に飛び込んでいくボード、という感じにはなっていません。

ただ、アニメならともかく、実写映画でこのイメージを具現化するのは、おそらくベテランの映画監督でも難しかったでしょう。

 

ラストシーン (4枚目の画像からの続き)

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映画では、竜のボードが天高く飛んで消えていくというシーンが追加されてますが、
ヒロシと竜のボードの結び付きの印象が弱いので、とってつけたような印象になってしまいました。


脚本を書かれた康 珍化(かん ちんふぁ)さんは、1987年に公開された少年隊主演のSF映画「19ナインティーン」も執筆されています。
(現在、DVD化はされていないようです。ちなみに同時上映は斉藤由貴主演の「トットチャンネル」)
19という名前のモンスターの造形が、何となく物悲しくて、その姿は「稲村ジェーン」に顔だけ登場する竜の姿に、どことなく似ていたような気がしないでもないような…