edamamesakuraの部屋

趣味で描いてる漫画や、好きな作家さんについて書いています。

獅子文六「大番」

図書館で「石坂洋二郎の逆襲」という本を手に取り、その中で比較対象として紹介されていた作家、獅子文六に興味を持ち、
全集の中から「悦ちゃん」という作品を選んで読んでみると、戦前の作品なのに自分が幼少期を過ごした昭和40年代っぽい雰囲気を感じ、
内容も、後半、悦ちゃんのパパが失踪した後に、悦ちゃんを訪ねてきたデパートのお姉さんと始まる二人暮らしの展開が超絶に面白くて、
すっかりこの作家が気に入ってしまいました。

続けて読み始めたのが、大長編「大番」
当時、大評判となり、映画も4部作が制作され、
舞台の一つとなった愛媛県宇和島では「大番」という名の銘菓が作られ、今現在も人気の土産品となっています。

 

ギューちゃんの相性で呼ばれる主人公、赤羽丑之助が、東京の兜町に出てきて、株の売買や取引をする相場師として成功するという物語ですが、
その成功と失敗の波は激しく、大金持ちになったり、借金で夜逃げしたりを繰り返しの波乱の人生。
彼は最終的に5人も愛人を作って、その間を行ったり来たりするのですが、若い頃に地元で見かけた資産家の令嬢、可奈子の事が忘れられない。
彼女は華族の海軍軍人と結婚してしまうが戦後は未亡人となり、資産も失い、その窮状を丑之助が救う形となり、
遠くから憧れる事しか出来ない存在だと思っていた可奈子に、求婚が出来る所までこぎ着けるのだが、
残酷な展開が待っています。

丑之助も可奈子も非常に魅力的に描かれているだけに、最後の流れは作者のキャラクターの突き放し方が、冷徹とまで言いたくなるほどで、
そのサブタイトルが「大団円」とは、ひどくシニカルな印象ですが、
作者の他の作品「沙羅乙女」もかなりキツい結末を迎え、これも「大団円」と銘打たれてるので、結果に関係なく共通なのかもしれません。

「大番」を読んでいると、大金を持つと男は女遊びで放蕩したくなる。
自分には経験ないですが、そのプロセス、心理の流れが理解出来たような気がしました。
同じ事は政治家が金と権力を持つと、根は善人であったり、崇高な理想を持っていたはずの人が、
それとはかけ離れた、所業を働き始める流れとも共通項があるような気がして、
獅子文六という作家は、人間というものをかなり深く理解している、そういう感じがしました。

最初に挙げた石原洋二郎の作品も読んでみましたが、妙に女性に媚び過ぎてるような気がして、
獅子文六の描く女性達の方が自然で、女遊びを描きながらも、その目線は男と女、どちらにも肩入れしない、対等な視点を持っているように感じました。
(そう感じる事自体が、昭和の古い価値観のまま、という事かもしれませんが…)

しかし、獅子文六のような、忘れ去られていた作家が、筑摩書房を中心とした展開で、にわかに再評価されるという現象は興味深いし、うれしいです。