小学館へ移籍しての週刊連載がビッグコミックスピリッツでの「以蔵のキモチ」
80年代後期の「少年チャンピオン」というのはかなり低迷していて、他の少年誌で描いていた作家さんが都落ちしてくる場所のようになっていました。
そういう雑誌で描いていた佐藤先生が、逆に大きな出版社へ移籍するというのは、近年だと曽田正人先生やきくち正太先生などおりますが、
当時としては極めて異例のケースでした。
主人公、高柳以蔵(たかやなぎいぞう)の父親が再婚して、ある日突然、家の中に新しい母と妹が同居してくる。
そこで発生する人間関係の軋轢や意識のずれを少しずつ理解していく生活の日々を、丹念に掘り下げていく、純文学のような佇まいもある作品。
最初の頃これは間違いなく佐藤先生の代表作になるであろう、作画も力強さを維持したまま、より洗練されていて絶頂期を迎えている、おおいに期待しました。
が、話のベクトルが徐々に妹の美樹に対する悶々とした思いへシフトしていくと、その深い味わいは徐々に薄れ、しかしある程度のクオリティは保ちつつ連載は続き、しかしどうやら先生は利き手を怪我したらしく、何度か長期の休載を繰り返し、いつの間にかスピリッツ誌上から姿を消してしまいます。
しかし、当時スピリッツの増刊号として2ヶ月に一回刊行されていたビッグコミックスピリッツ21という雑誌で連載再開。
ストーリーは、もう寄り道している場合じゃないとばかりに、途中だった美樹とのラブコメ展開は置き去りに、いきなり物語の核心である“姿を消した前の母親”へと、フォーカスしていきます。
家に帰ってきた美樹が以蔵に「あんたのお母さんを見かけた」と言います。
(なぜ顔を知ってるかというと、結婚式の記念写真を以蔵が後生大事に持っているのを見ている)
神経科の病院から出てきたというのでそこへ行くと確かに母親が出てきた。通院しているらしい。
以蔵は母親の後をつける。すると一軒家の中へ母親は入って行こうとする。以蔵は思わず声をかける。「あ、あの…」母親が振り返る。
「ご、ご無沙汰してます…」以蔵は会釈する。で、次号へ。
このスピリッツ21は発行部数が少なく、しかもこの連載再開は1回きりで、単行本未収録ですし、当時読んだ人もごく少数だと思います。
追記
今現在「ビッグコミックスピリッツ21」についてネットで検索しても何も出てこないようなので、当時連載されていた他の作品のタイトルをいくつか挙げておきます。
「チューロウ」 盛田賢司
「星々の宴」 六田登
「よいこ」 石川優吾 (途中で本家のスピリッツに移籍したみたいです)