edamamesakuraの部屋

趣味で描いてる漫画や、好きな作家さんについて書いています。

水村美苗 「続 明暗」

Amazonアフィリエイトに2度目の申請をしましたが脚下されてしまいました。諦めて、今後はなるべく楽天アフィリエイトを添付しようと思います。これで多少なりとも楽天ポイントが溜まればうれしいのですが)

 

今回紹介するのは、水村美苗さんの「続  明暗」

夏目漱石が好きで、10代、20代の頃によく読んでいました。
しかし、どんな内容だったのか思い出せない…
「それから」「門」「こころ」あたりなら何とかなりそうな気がしますが、
今回、取り上げたい「明暗」に至っては完全に失念していて、ネットであらすじを読んでもまるで思い出せない。

「明暗」は漱石にとって最後の作品であり途中で終わって未完なのですが、それ以前に描いていたような、前のめりになって登場人物達に寄り添っているような手法とは、趣が違っていて、まるで天井裏から下にいる登場人物達を覗き見して、冷静に第三者の立場で分け隔てなく描いているような印象がして、これが則天去私の表現か、と当時、凄く驚嘆したという印象のみが今でも残っています。

その文豪、漱石の未完部分を書いてしまったのが、今回、紹介する水村美苗さんの「続 明暗」です。
これも若い頃に読んで、内容は覚えていないのですが、この人は漱石がこの先、何を描きたかったのか的確に察知していて、それを見事に具現化している!とこれも当時、舌を巻き、驚嘆しました。
ただ、クライマックス部分に至る手前までは、文体が何となく軽くてあまりのめり込めなかったという記憶もあります。

今回、思い出してAmazonで検索してみたら、ちゃんと文庫本が今も刊行されていてレビューも高評価が多く寄せられていました(しかしリンク先は楽天市場
漱石の最終到達点はどうなるはずだったのかと、興味がある方にお勧めです。

 

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宮部みゆき「模倣犯」

雫井作品に出会う前は、宮部みゆきさんにハマってました。
更にその前は松本清張作品に一時期ハマってたのですが、どの作品も結末が淡泊で、もう少し余韻に浸らせてくれーという不満がありまして、
丁度その頃、古本屋で分厚い文庫本「理由」を手に取り、
これが面白ければ長い事楽しめそうだなぁ…と期待して読み始め、実際、長い時間、作品世界にどっぷり浸らせてもらいました。

とにかく舞台設定の説明が緻密で、登場人物の描写も事細かく、まるで現実の世界の出来事を読者に追体験させてくれるような描写力が、宮部作品の魅力で、
続いて「レベル7」題名は忘れましたが短編集、「火車」と夢中で読み進め、そしてこの「模倣犯」を読み始めます。

第一部が謎と緊張に満ちた連続殺人事件。
あまりに面白すぎて、この世にこんな面白い小説があっていいのか?と思ってしまう程面白く。
第二部から、若干謎解きを始めつつ、視点を変えて様々な人間の思惑が複雑に絡んでドラマが展開していきます。
そして第三部で犯人であるピースへと焦点が当てられていきます。

 

模倣犯1 (新潮文庫)

模倣犯1 (新潮文庫)

 

 

この作品は森田芳光監督によって映画化されています。
私は基本、森田作品は苦手なんですが、この映画に関しては楽しめました。
大好きな原作小説が、映像化され視覚的に観られて、わくわくして楽しかったです。
特に、原作で一番お気に入りだった、カズの妹の由美子が美人さんだったのがうれしかったです。
ただ中居正広演じるピースを新時代のヒーローなのか?というような描かれ方をしていたので、宮部さんからすれば、
かなり不本意な映画化だったようです。

 

 

模倣犯 [DVD]

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宮部作品の映像化は上手くいかない。ファンの間ではそう囁かれてたようですが、
映画「ソロモンの偽証」の高い評価で、それは払拭されたようです。
ただ、私個人はミステリー作品ではない「小暮写真館」あたりから気持が離れてしまい、ご無沙汰になってしまいました。
というか、最新作は図書館だと貸し出し中で置いてないので読む機会がない…

 

増田みず子「隅田川小景」

増田みず子さんは好きな作家さんなのですが、内容はあまり覚えていない。
ストーリーというか、文章から漂う雰囲気とか、作者が投影されている主人公が、物凄く自分の中にすーっと入ってくる。
私にとって、増田みず子の"私"が、村上春樹の"僕″みたいな存在のような気がします。

初期の作品群はいずれも主人公が孤独。たとえ周囲に優しい人がいても、根幹的な部分が一人で孤独。
けれど、それを不幸とか悲劇として受け止めていないし、それが自分の資質なのだと受け容れている。

独りや孤独を恥ずかしい、悲しい、惨めなものとして、悩み苦しんできた思春期を送ってきた自分にとって、
20代半ば頃に出会った増田さんの小説は、自分を慰め、そんな悪いものでもないよと癒してくれる心の処方箋のような存在でした。

その後、40代で漫画を再び描き始めましたが、自分にオリジナルを作る才能はないのか?それなら原作を元に描いてみたらどうか?と考え、
手掛けてみたのが、増田さんの短編「隅田川小景」でした。

 

隅田川小景

隅田川小景

 

 増田さんは東京の隅田川の近くで生まれ育ち、この川が故郷と捉えています。
昭和3,40年代頃、工場から出る汚水で川が最も汚れ、コンクリートで川全体を囲っていた時代。
主人公の周りの人達は皆、隅田川は昔からずっとそうだったと思っていますが、主人公の記憶にはなぜか綺麗な川の光景がある。
実は、戦争終了直後、川沿いの工場は稼働停止していて、一時期だけ川の水が綺麗になっていた時期があった。
その記憶を共有している友人との交流を描いています。
(もちろん原作の使用許可はないので、あくまで自分が漫画を描くためのレッスンとして非公開で描きました)

これを描いた事が次の糧になったのかどうか…取り敢えず、小説を漫画にするという方法を一つ実行した事で、
次に何を描きたいか考え始める事になりました。

 

 

この作品が増田さんの代表作と思います。

個体として存在している自分(人間)を生物学的な見地で描いていたと思います。

シングル・セル (講談社文芸文庫)

シングル・セル (講談社文芸文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫井脩介先生「望み」

最近は老眼やらドライアイやら眼精疲労やらで、長時間目を酷使出来なくなりまして、
一番きついのは本の活字を追う作業でして、その為、あまり読書をしなくなりました。

久しぶりに手に取ったのが雫井脩介先生の最近の作の「望み」でして、
相変わらず簡潔で読み易い文体で、序盤からすぐ作品世界に引き込まれまして、私にしてはかなり早い一週間で読了。
涙の涙腺が決壊、流れる流れる。目薬でない自然の涙液が目を潤してくれました。

本を読んでこんなに泣けたのはいつ以来だろうと考えると、前回はやはり雫井先生のフィギアスケートを題材にした「銀色の絆」
それより前だとやはり雫井先生の「つばさものがたり」
自分にとって特別な作家さんなんだなと改めて思うのでした。

望み (角川文庫)

望み (角川文庫)

 

 

雫井先生は1968年生まれの愛知県出身。
私も同じ68年で静岡県出身。

「仮面同窓会」という作品は舞台が東海地方でしたが、そこで描かれる学校やクラスメイトや街の描写が、その地域ならではの空気感に包まれている気がして、
特別な親近感が湧きます。

雫井先生の作品で特に凄いなと思うのは、人間を見る視点の、多様性とか深さ、洞察力で、一筋縄ではいかない人間のいろんな面を描き切ろうとしている感じがします。

前述の「望み」では、自分の息子が殺人事件の加害者か被害者(殺されているかもしれない)のどちらかなのは間違いなく、それなら親としてどちらを望みますか?
という究極のシチュエーションを設定し、
父親は被害者である事を望み、母親は加害者である事を望む。
胸に突き刺さるような台詞は多々ありましたが、とりわけ母親の母親が言う、子供が犯人だったという前提で口にする台詞。
大事なのは覚悟であり、ちゃんと覚悟すれば何も怖くない。幸せなんて感じなくなっても、本当に失ってはいけないものを守っていくのが大事なのだ。
には愛情のあまりの深さに感動したのですが、
すぐさま別の視点が用意され、父親の方は冷めた気持ちでその考えを受け止めます。
自分の書いた台詞に酔う事なく、冷静に多様な視点を提出できるところが凄いと思います。

 

 

あさのあつこ雫井脩介のフィギア小説『銀色の絆には心身が震えた

 https://shuchi.php.co.jp/article/2138?

前述した「銀色の絆」について、あさのあつこ先生が詳しいレビューを書いておられます。
私もこの本を読んで心身が震えた一人です。
内容に、というよりは、その着眼点の独自さにです。
フィギアスケートで挫折して引退した少女に、コーチがかける言葉が、
「私があなたを教えていて一番驚いたのは、あなたのお母さんの成長です」

普通こういう流れにもっていったら、肝心の少女が気の毒になってしまいそうですが、
この少女自体は、なんかおっとりしていて、あまり思いつめるような感じでないように設定されています。
そういう所も上手いなぁと思います。

 

銀色の絆(上) (PHP文芸文庫)

銀色の絆(上) (PHP文芸文庫)

 
銀色の絆(下) (PHP文芸文庫)

銀色の絆(下) (PHP文芸文庫)

 

 

斉藤由貴「恋する女たち」

今まで監督名の次に作品タイトルでブログを書いてきましたが、今回は主演女優の名前を持ってきました。

1985年の東宝の正月映画「雪の断章」で気になりだした斉藤由貴。翌年の86年の正月は大森一樹監督による「恋する女たち」が公開されました。
パンフレットに記述されてた通り、少女都市、金沢の街並みの魅力が存分に堪能出来ます。

市街地を少し離れたところにある犀川の土手を斉藤由貴小林聡美が歩きながら語らうシーン。
近所の銭湯の電柱の影に隠れて自分をストーカーしている同じ学校の男子生徒に詰問するシーン。
109があってその周りをバイクで走り回るシーン。
そして、加賀海岸の断崖絶壁の上で振袖姿でお茶を点てるシーン。
ここで印象的で忘れられない会話が出てきます。
(おそらく氷室冴子さんによる原作小説そのままだと思われます)

去年、ここでお茶会をやった時、子供が土足で上がりこんで「ぼくはお母さんのお腹の中で、もういいですかと聞いて、もういいですよと言われたから産まれてきた」
そう言います。
それを聞いた相良ハル子演じる汀子は、
「馬鹿なガキが母親に変な事ふきこまれてのたまわってる」みたいな事を言い、
高井麻巳子演じる緑子は
「子供のくせにしっかりした事言うじゃない」みたいな事を言い、
斉藤由貴演じる多佳子は
「逆上してたから忘れた」
そこで灯子がこう言ってたと思い出させる。そして多佳子は、
「私はたしかにそう言った。そして今でもそう思っている。生まれてくる時に「こんにちは」というおよそ社交的な言葉で挨拶して、
そして生れてくるのなら、こんな素敵な事はない」

映画のストーリーとは直接関係ないし、意味がわかるようでわからないのですが、何となく、生命の根源とか深淵に触れているような不思議な力強さを感じました。

 

恋する女たち

恋する女たち

 

 

恋する女たち (集英社コバルト文庫)

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市川準監督『BU・SU』

私はサザンオールスターズのファンでして、87年当時、原由子さんがリリースした「あじさいのうた」という曲が好きで、
その曲が主題歌になっているという理由で、今は無き歌舞伎町の映画街でこの映画『BU・SU』を観ました。

東京の映画館で最初に観たのが相米監督の「光る女」(プロレスラーの主人公がやたら苦戦するのでフラストレーション溜まった…)
2番目がこの『BU・SU』で新宿のオールナイト上映で朝まで3回くらいリピートしたのですが、いずれも途中でウトウトしてしまい、
それでも断片的に繋げるとおそらく全編観たのだろうという感じでした。
つまらなかった訳ではなく、むしろ印象深い作品で、ただ夜中に映画を観るのは初めてで、眠くなる行為だったという事です。

最初のシーンから印象的で、初めて耳にした歌曲「花の街」をバックに主人公の少女、麦子を乗せた列車が東京へ、銀座へ到着。
有楽町マリオンがでかでかとそびえ立ち、沢口靖子が主演していた映画「竹取物語」の看板がやたら目立つ。

麦子を演じるのはアミューズの女優第一号、富田靖子。タイトルはブスだが、彼女はかわいい。この映画では心がブス(暗い過去で屈折して鬱屈している)
で口数少なく、俯いたむっつりした場面が多い。それだけにエンディングでの満面の笑顔が胸にささる。

市川監督は街の情景を撮る天才で、この映画を観た事で、自分の街を見る目が変わった。観光名所ではなく、普通の人々が暮らす街の景観こそ
魅力的で美しくて楽しい。

後、エンディングの画面は全て白黒の富田靖子のアップで、モノクロの写真を美しいと思ったのも、この時が初めてでした。
それまでは白黒写真というのは、カラー写真のない時代の過去の遺物と思ってたので…

そう考えると、この映画は自分の芸術観に多大な影響を与えた作品だったなぁと改めて思うのでした。
市川監督有難うございます。

 

 

 

Memories of 市川準 DVD-BOX(6枚組)限定生産

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相米慎二監督「雪の断章 -情熱-」

追記 2021年6月19日

8月にブルーレイ出るのですね。東宝さんもっと宣伝お願いします。

tower.jp

 

 

 ブルーレイには斉藤由貴さんのインタビューやメイキングが付くそうです。

 

 DVDの方は2千円とお安い。

 

おそらく、原作者の佐々木丸美さんのご遺族がお許し下さったのでしょう。有難うございます。

 

 

 

この作品も公開当時はなんだこれ?と思いましたが、忘れられないシーンの多い作品です。

殺人犯の疑いをかけられた夏樹伊織(斎藤由貴)が自身が歌う主題歌「情熱」をバックに、縁石の上を危ういバランスを取りながら延々と歩くシーン。

笠置シヅ子の「買い物ブギ」をバックに海へ飛び込む。

「もう生きられない」と入水自殺しようとする世良公則に向かって「私につかまって!」と手を伸ばすシーン。

桜の樹の前で斉藤由貴榎木孝明世良公則の3人がキャッチボールをする遠景の長回し。警察のレオナルド熊がそれとなく犯人の確証を掴んでいる事を匂わし、
その事を隠し続ける事の意味を犯人はわかっているんだろうかね?と聞こえるようにつぶやいている時、世良公則の表情は全くわからない、想像するしかない。

夜、3人でビールを飲みながら桜の樹の周りをぐるぐる回りながら歌うシーン。

ようするに由貴と世良のシーンの印象が強くて、由貴が本当に恋している育ての親代わりである榎木のシーンはそれほどでもない。


冒頭の長回しワンカットが有名なこの作品ですが、なぜそうしたかは原作小説を読むと納得出来る。
かなり長い小説でしかも最初の幼少期のエピソードも長い。しかしそれを切ってしまうと、その後の話がわからなくなる。
しかし1時間半の時間で斉藤由貴の映画にしなければならない。ならば幼少期を最短時間で終わらせたい。
ひたすら短くしたいが為の演出なので、何も事情を知らない初見では、ドリフの全員集合!のセットの舞台裏を観ているような印象でした。

当時の相米監督のインタビュー記事だと、原作小説に対して古くさいとか乗り気でないような発言ばかりなので、
こちらも佐々木丸美さんの原作をそういうものなんだろうと侮っていましたが、かなり後から図書館で見かけて読んでみたら、
面白いし、何より主人公の頭の良さとか理知的な部分が凄くて、これは思春期の少女にとってバイブルになるような作品だと思いました。
相米映画が身体で動く作品だとしたら佐々木小説は頭で考える作品。
どちらにも強力な魅力があるけれど、お互いに相容れないスタイルだったように思います。

最後の忠臣蔵の映像はなんだろう?今もよくわかりませんが、なんとなく「ようするにこれはメロドラマだよ、ちゃんちゃん」
みたいな監督の原作に対する距離感のように感じられ、そこも熱烈な原作ファンからすれば馬鹿にされたような印象になるかもしれません。

しかし、それでも前述のようにこの作品には印象深いシーンが多く、全体の歪さが作品の魅力になっていて大好きな映画です。
長らくソフト化される事がなく、観る機会の少ない作品でしたが、今現在Amazonプライムビデオでレンタルや購入が
出来るようになっているみたいです。

 

雪の断章?情熱?

雪の断章?情熱?

 

 

 

雪の断章 (創元推理文庫)

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