edamamesakuraの部屋

趣味で描いてる漫画や、好きな作家さんについて書いています。

雫井脩介先生「望み」

最近は老眼やらドライアイやら眼精疲労やらで、長時間目を酷使出来なくなりまして、
一番きついのは本の活字を追う作業でして、その為、あまり読書をしなくなりました。

久しぶりに手に取ったのが雫井脩介先生の最近の作の「望み」でして、
相変わらず簡潔で読み易い文体で、序盤からすぐ作品世界に引き込まれまして、私にしてはかなり早い一週間で読了。
涙の涙腺が決壊、流れる流れる。目薬でない自然の涙液が目を潤してくれました。

本を読んでこんなに泣けたのはいつ以来だろうと考えると、前回はやはり雫井先生のフィギアスケートを題材にした「銀色の絆」
それより前だとやはり雫井先生の「つばさものがたり」
自分にとって特別な作家さんなんだなと改めて思うのでした。

望み (角川文庫)

望み (角川文庫)

 

 

雫井先生は1968年生まれの愛知県出身。
私も同じ68年で静岡県出身。

「仮面同窓会」という作品は舞台が東海地方でしたが、そこで描かれる学校やクラスメイトや街の描写が、その地域ならではの空気感に包まれている気がして、
特別な親近感が湧きます。

雫井先生の作品で特に凄いなと思うのは、人間を見る視点の、多様性とか深さ、洞察力で、一筋縄ではいかない人間のいろんな面を描き切ろうとしている感じがします。

前述の「望み」では、自分の息子が殺人事件の加害者か被害者(殺されているかもしれない)のどちらかなのは間違いなく、それなら親としてどちらを望みますか?
という究極のシチュエーションを設定し、
父親は被害者である事を望み、母親は加害者である事を望む。
胸に突き刺さるような台詞は多々ありましたが、とりわけ母親の母親が言う、子供が犯人だったという前提で口にする台詞。
大事なのは覚悟であり、ちゃんと覚悟すれば何も怖くない。幸せなんて感じなくなっても、本当に失ってはいけないものを守っていくのが大事なのだ。
には愛情のあまりの深さに感動したのですが、
すぐさま別の視点が用意され、父親の方は冷めた気持ちでその考えを受け止めます。
自分の書いた台詞に酔う事なく、冷静に多様な視点を提出できるところが凄いと思います。

 

 

あさのあつこ雫井脩介のフィギア小説『銀色の絆には心身が震えた

 https://shuchi.php.co.jp/article/2138?

前述した「銀色の絆」について、あさのあつこ先生が詳しいレビューを書いておられます。
私もこの本を読んで心身が震えた一人です。
内容に、というよりは、その着眼点の独自さにです。
フィギアスケートで挫折して引退した少女に、コーチがかける言葉が、
「私があなたを教えていて一番驚いたのは、あなたのお母さんの成長です」

普通こういう流れにもっていったら、肝心の少女が気の毒になってしまいそうですが、
この少女自体は、なんかおっとりしていて、あまり思いつめるような感じでないように設定されています。
そういう所も上手いなぁと思います。

 

銀色の絆(上) (PHP文芸文庫)

銀色の絆(上) (PHP文芸文庫)

 
銀色の絆(下) (PHP文芸文庫)

銀色の絆(下) (PHP文芸文庫)