edamamesakuraの部屋

趣味で描いてる漫画や、好きな作家さんについて書いています。

佐藤宏之先生「阿部一族」

今のところ佐藤先生が最後に手掛けた作品が、森鴎外の小説が原作の「阿部一族
リイド社が発行している時代劇専門マンガ誌に連載され、後に単行本化されました。

あらかじめ原作小説を読んでみたのですが…
江戸時代、城主が死ぬと、その後を追って大勢の家臣が切腹して忠義を尽くすが、それは生前に城主の許可を得ておかなければならない。
それを得ないで切腹した阿部家の当主。その後の阿部一族への風当たりは強くなるが、元はといえば、
なぜ切腹しないという周りの陰口に堪えかねての行動で、結局阿部一族は内乱を起こし全滅していく。

後追い切腹とか、事前に許可とか馬鹿馬鹿しいこれが史実ならともかく、後の研究でかなり信憑性が疑わしいという設定の物語。
佐藤先生が自ら選んだのか、それともそういう企画で依頼されたのか、わかりません。

この連載が掲載された雑誌の他の作品は、派手で大きなコマ割りで、華やかな剣さばきが目立つ作品が多い中、
佐藤先生のこの作品は、コマ割りも小さめで地味で、大ゴマで描かれるのは人物ではなく、城や屋敷ばかり。
しかしその建物の外側や中の描かれ方は、静かな存在感があり、一枚の絵としてゆっくり味わってみたい趣があります。
それに対して、登場人物は描き分けの変化も乏しく、大事なシーンで、目の瞳が小さな黒丸の点のみであったり、モブシーンでもないのに、顔がのっぺらぼうになったりしていて、
もはや、佐藤先生は人間を描く事に興味を失ってしまっているのではないか、そう思えてしまいました。

最後のシーンは登場人物の一人が土座衛門の死体となっている場面。
私にはこの登場人物が誰なのか、どこら辺で登場したか思い出せませんでした。
もう一度読み返してみればわかるのでしょうが、重要な人物でもないし、まあいいやと思ってしまいました。

佐藤先生が最後に描いた作品が滅びゆく阿部一族というのは、あまりにも悲しいですが、ドラマチックなのかもしれません。

 

阿部一族

阿部一族